これだけ対象ターゲットが多岐にわたるブランドをPRするためには、いったいどの媒体にアプローチしたらいいのでしょう。
それを知るために、私はあらゆる雑誌を購読しているのです。
ですから雑誌や新聞に目を通す時間、そして購入する費用は膨大になりますが、これは仕事柄とても重要なことであり、マーケティングデータに頼りきっていてはいけません。
覚悟してください。
私は「貸し出し」というファッションプレスの基本的な仕事を担当しました。
この間に出会ったたくさんの編集者やスタイリストの人たちは、今ではみんな編集長やデスク、そして業界のトップスタイリストになっており、今でも私の財産です。
文章を読んだり、書いたりするのが苦手ではプレスは務まりませんと書きましたが、同様に人に対して好奇心を持てない人はプレスには向いていません。
スタイリストや編集者、広告代理店の人たちの中には、仕事だけの付き合いで終わってしまう人もいますが、会食をしたり、飲みに行ったり、個人的にも楽しいお付き合いのできる人も大勢いるはずです。
そういう人たちと気持ち良く付き合いながら、自然に相手の懐に入ってゆけるようなタイプでないと、仕事の幅は広がっていきません。
だからといってゆき過ぎも考えものです。
例えば自分の担当しているブランドを編集者やスタイリストに取り上げてもらうために、貧欲に人脈づくりに奔走している人を見かけます。
パーティー会場で必死に力のある編集者に取り入っているプレスとそれに辞易しながらも顔に出せない編集者。
こういう場面にもよく遭遇します。
いくらプレスには積極的にコミュニケーションをとる姿勢が大事だと言っても、これではとても「いい関係」にはなれません。
私は人との付き合いは、公私ともども自然体を心がけています。
日々の付き合いの中に、仕事相手の域を出ない人が突然ジャンプして飛び込んで来たら、誰だって驚きます。
ですから、心がけているのは人間関係の構築は時間をかけてということ。
仕事の話の中に少しずつプライベートの話をかませながら相手との距離感を縮めていくことです。
やがて家族のお祝い事や誕生日などにいただきものをするような間柄になるかもしれませんが、そのときもきちんと礼状を出すなど礼節ある態度はキープしましょう。
そういう手順を十分に踏まずに、つまりウォーミングアップもなしで「私はブランドの顔なのよ」と突然相手の領地や私生活に土足で入り込むようなことはいけません。
特に問題なのは、宣伝費を扱う権限を持っている人の中に時々いる、広告費とプレスの関係について大きな勘違いをしているプレスです。
基本的に広告活動とプレス活動は別物です。
ですから「広告費をこれだけおたくの雑誌に使っているのだから、編集面でとりあげるのは当然」と間違った権利の主張をするのは前時代的です。
メディアの公共性を尊重するならば、あくまで編集と広告は独立すべきです。
私は、春夏・秋冬シーズンの変わり目に必ず営業やショップから直接ヒアリングをします。
どの媒体に載ったどの商品がいちばん店頭で消化されたか、どの雑誌を見たと言って店頭にお客様が訪れたか。
日本に120店舗ある全くネトンショップから直接聞くのは難しいので、アンケート用紙をすべての店頭に郵送して回答してもらうことで情報を収集しています。
こういう調査や情報収集をせずに、プレスが独りよがりな自分の勘に頼って、メディアの選定を行ってはいけません。
「この雑誌が今クール」なんて、独善的にメディア選定しているプレスは自然と淘汰されていきます。
例えばショップで真剣に販売と向き合っている店舗のスタッフは、宣伝部やプレスが貸し出して掲載された商品に非常に関心を寄せます。
具体的に指名して店頭に来るお客様が後を絶たないからです。
そのような店頭と連動するためにショップのヒアリングはとても大事です。
私自身は、Bの販売スタッフの意見のほうが、実のところは、経営陣の意見より心に残ります。
最終的なジャッジはプレスが下すにしても、業界の動向や商品の動きを聞くために、販売の現場やスタイリストや編集の人たちから、このように謙虚に意見を聞くようにしています。
もちろんプレスには、他者の意見に振り回されずに守らなければならないフィールドがあります。
それはブランドイメージです。
例えば営業や店舗という数字で結果の出てくるところ、また経営陣に近い社長室や経営企画室、そのような部署や担当者は、得てして社内で発言力が強いものです。
そんな彼らの強権発動的な意見や要望を全部受け入れる体制をとってしまうと収集がつかなくなり、ブランドイメージがあやふやになったりボロボロになる危険あります。
ことブランドイメージに関しては、プレスは、自分の立場を毅然と守らなくプレスの仲間に話を聞くと、営業や経営陣が主導権を握ってプレスが自由にメディア選択をできないと嘆くケースがあります。
性々にして、そのような会社はシステムのレベルが低いので、経営的にも要注意ですね。
ところで、貸し出しの現場や人との付き合いに関して、私はなるべくアナログにやるのがいいと思います。
例えば今でも商品を貸し出しする際、担当プレスには、伝票記入を手書きでさせています。
バーコードをチャチャチャと読み込んでプリントアウトした伝票を洋服に付けて貸し出す、というシステムの導入をすでに検討しましたが、手書きで品番を書き写している間に、季節の動向やファッションの傾向、何気ないおしゃべりを重ねることができて、お互いの理解が深まる、そのようなアナログな時間が大事だと思い直し、あえて合理的にしないことにしたのです。
広報だけでなく宣伝費を管理する立場を兼務するプレスには、日々、悲鳴をあげたくなるぐらい多くの「売り込み」があります。
実際、私もBの日本国内の宣伝費を管理する立場におり、各種アプローチを受けています。
表参道の地下鉄構内の広告スペースの売り込みにはじまり、ワールドカップのときにはイタリアチーム関連の売り込みが日本のみならず海外からもあり、大学祭、オペラ公演や映画祭への後援など、数えはじめたらきりがないくらいです。
このような売り込みの善し悪しを一人で判断し、対応するのは到底無理なので、広告代理店と呼ばれる、広告のプロの会社に手伝ってもらうことになります。
この広告代理店をどのような基準で選ぶかもプレスの大事な手腕です。
現在Bが取引をしている広告代理店は、5社程度あります。
現在のBの規模だと少し多いのですが、すべてのメディアに強く、フットワークのいい代理店というと1社ではカバーしきれないのです。
その間、取引を開始しては切れていった代理店が多い中で、その代理店と山あり谷ありながらも節度ある取引関係が構築できたのは、きわめて優秀なスタッフと巡り会えたからだろうと思います。
優秀な担当者だと、こちらの意向をよく汲み上げたうえで、さらに思いもよらないような斬新なアイディアを出してきてくれるものなのです。
リストラが進み、今ではどこの企業も、必要最低限のスタッフで仕事をこなしているのが現状でしょう。
そのような中、広告代理店の優秀なスタッフをどれだけ自分の陣地に取り込めるかは、やはりプレスの手腕や人柄にかかっているような気がします。
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